飲み屋のおっちゃんが教えてくれた命の大切さ

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ひとり飲み歩きが好きな黒川。

1人でしっぽり飲むのが好きというより、知らない人との出会いと会話を求めている。

 

そんなある日1人のおっちゃんと出会いました。

 

だいたいいつも若さを羨まれたり、中年たちの説教を聞くのがほとんどで、それがなぜか心地良くて。

 

 

でもそのおっちゃんは違った。

 

だんだん話をしていくうちに、哲学っぽい話に。

 

 

「なあ兄ちゃん、なんで命が大事なのか知ってるか?」

 

ぽいというより完全に哲学だな。

 

酒が回っていて上手い返しが思いつかなかった。

 

正直に「わからないです」と答えた。

 

 

「俺もわかんねえ。」

 

歳の差ゆえにツッコんでいいのか分からなかったけれど、ずいぶん対等に見てくれていたので「なんすかそれ笑」と小さく返してみた。

 

 

「だってよ、自ら命を絶ったら周りの人が悲しむからっていう答えがあるけれど、それって命そのものが大切だって説明にはならねえだろ。この皿だって誰かにとって大事だったら命と同じじゃねえか。」

 

何も言えなかった。

 

確かに命は大事だ。

 

でも周りの人が悲しむからという相対的な理由ではなくて、命自体が大切である理由が答えられない。

 

「モノってのは誰かが必要としているから価値があるわけだろ。それが人に入れかわって、誰も必要とされない人ならモノと同じじゃねーか。」

 

言っていることは極端だけれど、なぜか府に落ちた。

 

きっとこの人はものすごく頭がキレる。

少し前のめりになって聞いてみた。

 

「じゃあなんで大事なんですかねえ」

 

「それはな、命は自分の中にあるからじゃねーかな。」

 

その心を聞いてみたくなった。

 

「だってよ、誰かから必要とされてなくても命は大事だって思うだろ?それは自分の中にあって自分だけのものなんだよな。自分が大事だから他の人の命も大事だと決めつけてるのかもしれなねえな。」

 

賛否ありそうな意見だとは思ったけれど、映画のセリフよりは理にかなっていると思った。

 

野暮な質問をしてみた。

 

「世の中には自分が大切じゃない人もいるわけじゃないですか。そんな人が目の前で死にたいって言ってたらどうします?」

 

もはや名言を求める大喜利ですらあった。

 

 

「ぶっ飛ばすかな」

 

やっぱ昭和の人はぶっ飛んでるなあと思った。理由を聞いた。

 

「死にたいんだったら俺がボコボコにする。だって死にたいんだろ?じゃあボコボコにしてもいいじゃん。それでやめてとかいうんだったら、まだ死にたくねえってことなのかもなって伝える。」

 

苦痛を感じずに死にたい人もいるだろうけれど、それを言うのは場違いだと思って控えた。

 

おっちゃんはこう続けた。

 

「死ぬってのは痛いとか怖いとかも感じれなくなっちゃうだろ。何もない無になるってこと。無になりたいから死にたいって思うんだろうけど、無理に生きるのが正解ってわけでもねえだろ。逃げ方を知らないから無を選んだだけで。」

 

話がこんがらがってきたなあと思いつつ、のばし気味の相槌で促した。

 

「命が大切な理由を聞かれたら、あ、まって、俺タバコ切れてるから買いに行ってくるわ。」

 

 

酔っ払いの話ってのは飛躍するもんで、このおっちゃんもコンビニから帰ってきたときにはもう別の話をしていた。

 

なんだかそれが「あとは自分で考えろ」と言われているような気がした。

 

 

 

おっちゃんの話は結局良く分からなかったけれど、言いたかったことはきっとこうだ。

 

「命が大切な理由は、ほとんどの人は死にたくないから周りもそうだと思っているだけ。自分の命が大切じゃないと心から思っていたら死ぬ前に一回逃げてみろ。どうせ生きてもいいかなって思える世界はどっかにあるだろ。そう感じたら命はそいつにとって大事だ。」

 

命そのものが大事な理由は説明できない。

大事かどうかは自分で決めること。

どうでもいいやって思ったら死ぬ前に一回逃げてみろ。

全部捨ててどっかに行くってのは死ぬよりも楽かもしれない。

 

明確な答えではないけれど、今まで聞いた「命は大切論」の中で1番納得できた。

 

 

そしてこれは、本気で死にたいと思ったことがある人からしか出てこない言葉だと思った。

 

生きることも死ぬことも否定しない、どちらの気持ちもわかっているから出る言葉。

 

 

もし死にたいと思ったときは全力で逃げてみようと漠然と決めた。

 

 

きっと世の中には死のうと思っても物理的に自分の力では死ねない人もいる。

 

実際に身を投げる人はこんなことを考える余裕もないくらい追い詰められていることも想像できる。

 

 

 

今も答えは分からない話だけれど、自分の命はこの世で唯一「自分だけの中にある」ものだから、自分の命が大切かどうかは自分で決める。

 

大切じゃないのであれば、大切かもと思える環境を探してみろ。死ぬのはそれからだ。

 

ってことか。

 

 

一見冷たいようにも思えるけれど、誰もことも否定しない優しい意見だとも思う。

 

死にたいって人がいたら思いっきりぶっ飛ばすのもいいかもしれない。

 

でも逆に思いっきり抱きしめて

「死んだらこの気持ちももう感じることができないんだよ」って言うのも誰かを救うことはできるかもな。

 

あくまで違う人間だから、干渉しすぎない人間の脳みそを少し覗けた気がして面白かった。

 

 

これだからひとり飲み歩きはやめられないな。

 

んじゃまた!